売り場で「植物由来のレチノール」という言葉を見かけることが増えました。その多くがバクチオールという成分を指しています。
ただこの呼び方は、少し誤解を生みやすいところがあります。バクチオールはレチノールの仲間ではありません。構造がまったく違う別の成分です。
レチノールとは別の成分です
バクチオールは、インドなどに自生する植物の種子から見つかった成分です。レチノールはビタミンAの一種ですが、バクチオールはビタミンAとは無関係の構造をしています。
それでも並べて語られるのは、肌の中での「ふるまい」が似ているからです。遺伝子の発現パターンを調べた研究で、バクチオールがレチノールとよく似た働き方をすることが報告されました。出発点が違うのに、途中から似た道を通る。そういう成分だと考えるとわかりやすいと思います。
比較試験で何がわかったか
この成分が注目されたきっかけは、2019年に報告された比較試験です。バクチオールとレチノールを12週間使い比べたところ、しわと色素沈着の変化に統計的な差は出ませんでした。
差が出たのは使い心地のほうでした。皮むけやヒリつきを訴えた人は、レチノール側のほうが多かったのです。
| レチノール | バクチオール | |
|---|---|---|
| 分類 | ビタミンAの一種 | 植物由来のフェノール化合物 |
| 研究の蓄積 | 数十年分 | 10年ほど |
| 報告された刺激 | 皮むけ・ヒリつきが出やすい | 比較試験では少なかった |
| 使う時間帯 | 夜が基本 | 製品の指示に従う |
穏やか、と言い切れるかどうか
ここは慎重に見ておきたいところです。刺激の報告が少ないのは確かですが、試験の期間は12週間で、参加した人数も40人あまりでした。レチノールが数十年かけて積み上げてきたデータの量とは、まだ差があります。
敏感肌の人を対象にした4週間の評価では、うるおいや見た目の指標が改善し、問題なく使えたと報告されています。ただこれも短い期間の話です。
刺激が少ないことと、長く使って安全であることは、同じではありません。
どんなときに選ぶか
レチノールを試したものの、皮むけや赤みで続かなかった。そういう経験がある人にとっては、試してみる価値のある選択肢だと思います。
一方で、レチノールが問題なく使えているなら、わざわざ乗り換える理由は強くありません。研究の量では、まだレチノールのほうが厚みがあります。
わたしは、こういう「新しい選択肢」が出てきたときこそ急がないようにしています。今使っているものが合っているなら、それを続けるほうが肌にとっては楽なことが多いからです。
Grain Note
代わりになるもの、ではなく、別の入り口。
バクチオールを「レチノールの下位互換」でも「上位互換」でもなく、別の入り口として見ておく。そう捉えておくと、売り場の言葉に振り回されずに済みます。
Grain Evidence
バクチオールとレチノールを比べた12週間の試験
光老化のある44名を対象に、バクチオール0.5%とレチノール0.5%を12週間使い比べた無作為化二重盲検試験があります。しわと色素沈着の改善に両者で有意な差は見られず、一方でレチノール群のほうが皮むけとヒリつきの訴えが多かったと報告されています。
Dhaliwal S, et al. Br J Dermatol. 2019;180(2):289-296. (PMID: 29947134)
レチノールに似た遺伝子発現の変化
バクチオールはレチノイドと構造上の類似性をもたないにもかかわらず、遺伝子発現の解析でレチノールと似たパターンの調節を示したと報告されています。臨床評価ではしわ・色素沈着・弾力の指標で改善が見られ、レチノールで典型的な副反応は目立たなかったとされています。
Chaudhuri RK, Bojanowski K. Int J Cosmet Sci. 2014;36(3):221-230. (PMID: 24471735)
文献の全体像をまとめたレビュー
30件の文献をまとめた系統的レビューでは、光老化・ニキビ・色素沈着に対してバクチオールが外用レチノイドと同程度の結果を示し、有害事象の報告は少なかったとされています。ただし個々の研究は規模が小さく、長期のデータは限られます。
Puyana C, et al. J Cosmet Dermatol. 2022;21(12):6636-6643. (PMID: 36176207)



