日差しが弱くなる11月は、夏の紫外線対策を少しゆるめたくなる時期です。それでも頬のしみやくすみは、季節に関係なく気になります。
この秋冬、SNSでスキンケアの話をするときに成分の名前を挙げる人が増えているそうです。セラミドやナイアシンアミドと並んで、よく名前が出るのがトラネキサム酸です。
止血の薬として生まれた成分
トラネキサム酸は、アミノ酸のひとつであるリシンをもとに、1960年代に日本で開発されました。手術のときの出血を抑えたり、のどの腫れや痛みをやわらげたりする薬として、長く使われています。
肌との関わりが知られるようになったのは、その後のことです。別の目的でこの薬を飲んでいた人の肝斑が薄くなったという報告がきっかけだったといわれています。
しみができる流れのどこに関わるのか
紫外線を浴びると、肌の表面の細胞はプラスミンという酵素を増やします。プラスミンは、メラニンをつくる細胞に「作りなさい」という合図を送るきっかけのひとつになります。
トラネキサム酸は、このプラスミンができる手前の段階を抑えます。できてしまったメラニンを分解するのではなく、合図の段階で止めるイメージです。日本の研究では、紫外線を当てたモルモットの肌に塗ると色素沈着が抑えられたと報告されています。
飲むものと塗るもの
肝斑に対しては、飲み薬としての研究がいちばん多くあります。日本では肝斑向けの内服薬が第1類医薬品として売られていて、薬剤師の説明を受けて買う決まりです。血栓の病気がある人など、飲めない人もいます。
塗る使い方にも、臨床試験はあります。ただ、飲み薬と比べると数が少なく、参加した人数も数十人規模のものが中心です。複数の研究をまとめた分析でも、塗る使い方についてはまだデータが足りないと書かれています。
化粧品売り場で見かけるのは、塗るほうです。医薬部外品の有効成分として、肌あれ防止と美白の両方で承認されています。研究で使われた濃度と、手元の製品の配合量が同じとは限らないことも覚えておきたい点です。
| 飲む(内服薬) | 塗る(医薬部外品) | |
|---|---|---|
| 区分 | 第1類医薬品など | 医薬部外品 |
| 主な目的 | 肝斑の改善 | しみ・そばかすを防ぐ、肌あれを防ぐ |
| 研究の厚み | 比較的多い | まだ限られている |
| 気をつけたいこと | 飲めない人がいる。薬剤師に相談 | かぶれ。初めては腕などで試す |
選ぶ前に確かめたいこと
まず、気になっているしみが何なのかです。両頬に左右対称に広がる肝斑と、紫外線でできる点状のしみでは、向いている手入れが違います。迷うときは皮膚科で一度見てもらうと、遠回りをせずに済みます。
化粧品で取り入れるなら、パッケージの「医薬部外品」の表示と、有効成分の欄を見てください。「美白」はしみを消すという意味ではなく、メラニンの生成を抑えてしみ・そばかすを防ぐ、という意味で使われています。
わたしは、夏のあいだ日焼け止めをきちんと塗れなかった年に、秋から美白の美容液を足したことがあります。目に見えて何かが変わったわけではありませんでした。それでも、来年の夏まで続けようと思えたのは、刺激がなく毎日使えたからです。
どの美白成分も、日焼け止めの代わりにはなりません。冬の日差しの中でも、日焼け止めを基本に置いたうえで重ねてみてください。
Grain Note
同じ成分の名前でも、飲むものと塗るものは別の話として読みます。
研究で示されていることの多くは、飲み薬としての肝斑への使い方です。化粧品の美容液に期待できることは、それよりずっと控えめです。その差を知ったうえで、日焼け止めのあとに足す一本として選べば十分です。
Grain Evidence
紫外線による色素沈着とトラネキサム酸
モルモットの肌に紫外線を当てたあとトラネキサム酸を塗ると、色素沈着の発生が抑えられ、メラニンをつくる酵素チロシナーゼの活性も下がったと報告されています。紫外線で表皮の細胞に生じるプラスミンの働きを抑えることが、仕組みとして考えられています。動物での結果です。
Maeda K, Naganuma M. J Photochem Photobiol B. 1998;47:136-141.
塗るトラネキサム酸の比較試験
肝斑のある50人を対象に、顔の左右で3%トラネキサム酸と、ハイドロキノン・デキサメタゾンを含む薬剤を12週間塗り比べた二重盲検試験があります。改善の程度に大きな差はなく、副作用はハイドロキノン側で目立ったと報告されています。規模の小さい試験で、医薬部外品の製品とは濃度も処方も異なります。
Ebrahimi B, Naeini FF. J Res Med Sci. 2014;19(8):753-757. (PMID: 25422661)
肝斑に対するトラネキサム酸のメタ分析
11の研究(667人)をまとめた分析で、トラネキサム酸を使うと肝斑の重症度スコアが下がり、ほかの治療に足した場合もさらに下がったと報告されています。含まれる研究の多くは飲み薬や注射で、塗る使い方だけの結論ではありません。
Kim HJ, et al. Acta Derm Venereol. 2017;97(7):776-781. (PMID: 28374042)
Grain Pick
トラネキサム酸を美白有効成分として配合した、医薬部外品の美容液です。肝斑の内服薬とは別の製品で、塗って使うものです。
しみを消すためではなく、防ぐための一本として。朝は日焼け止めと組み合わせてください。


